総合商社から教育ベンチャー。飛び込んだ先に見た、「IT×教材」の秘める”本当の”可能性。

(株)花まるラボ 徳丸 晃大

授業で「踊る」子どもたち。歓喜と躍動に満ちた時間。

教室中につぎつぎと響き渡る、「Yes!(できた!)」の声。
立ち上がって喜ぶ子ども、小躍りして感情を表現する子ども。
まずは驚きを共有するために、この動画をご覧いただきたいとおもいます。

真夏のセブ。土埃の学び舎で。

フィリピンの首都、マニラからセブパシフィック航空に乗り換えて1時間。

セブ島は夏。特有の生温い風の中を、慌ただしく行き交う、溢れそうなほどの人を積んだ原色のジプニー。その町並みは、忘れかけていた長閑かさと、発展途上の無秩序を、いっぺんに感じさせます。

私事ですが、昨年末まで、私は総合商社に勤めており、教育ベンチャーに転身したのはこの2月。車窓を眺めながら、当時、出張で何度かこの国を訪れたことを思い出していました。

ふと、同じ景色を眺めていても、見えるものが全く異なっていることに気づかされます。

以前、出張先で必ずと言っていいほど目を配っていたのは、車の通行量や車種、スーパーの品揃え、街行く人の格好や食生活、流行。

しかし、今はその何よりも、街を歩く親子連れの様子や、遊んでいるものが気になります。

空港から車に揺られること小一時間。舗装と呼べるかギリギリのコンクリート道が途切れ、土埃が立ち込める路地裏に、とある公立の小学校があります。ここが今回の目的地。

路面でチキンを売るおじさん、子どもの送り迎えのお母さん。たくさんの人でとても賑やか。重そうな荷物を抱え、明らかに日本人と分かるであろう我々は好奇の目に晒されましたが、不思議とそこに敵意や疎外の念は見えません。

モノの不均衡は解消される。教育はどうか。

少し話が逸れますが、前職である商社の事業は、ものすごく乱暴な言い方をすれば、世界中に存在する「モノの不均衡」を見つけてきて、それを解消することでした。

石油のような資源であれ、魚や肉のような食糧であれ、モノの不均衡には、必ずそれを解決してほしいというニーズが存在するからです。

では、教育の不均衡は解消されているのか、と考えると、いくつかの側面が見えてきます。地域や経済の格差によってもたらされる不均衡は、徐々に解消されつつあるようです。これは、インターネットを介して無償で質の高い授業や教材が提供されるようになったことが大きな要因です。

一方で、未だに確実に存在し、且つ置き去りにされているのは、我々が大きな問題意識として抱いている、「意欲」の不均衡です。子どもが、勉強をはじめとした、すべてのことに「意欲」を持てるようになるには、家庭環境や教員の質が重要なのは、この業界に身を置いて長くない私でも容易に想像できます。

誰でもどこでも教育が手に入るようになったとはいえ、それ自体を求める意欲がなければ、成長はありません。

この不均衡を、家庭環境や教員のせいだといって置き去りにせず、どう解消するか。その糸口を探るのが、今回セブを訪れた大きな理由でした。

セブの青空の先に世界を見据えて。

日本を飛び越え、言葉・文化・学力、そして「意欲」の壁を前に、我々の教材がその壁を壊すに足る力を、果たして持っているのか。

会社としても、度々フィリピンやカンボジア等の小学校、養護施設を訪れ、授業や教員育成を提供し、知見を得てきましたが、40人を越える生徒に、一斉にアプリでの授業を行うのは初めての試みです。

訪れたのは、決して裕福とはいえない地域の公立小学校。学力からしても、タブレットへの適応度からしても、この学校で受け入れられれば、凡そ世界中の小学生が、このアプリを通じて学ぶことが出来るだろう、と考えていました。

教室が「躍動」する。想像を越える反応。

先生に従えられ、40台のタブレットを抱えて、2年生の教室に入ります。
大勢の生徒が、「歓迎の歌」で我々を迎え入れてくれました。

期待と少しの不安が入り混じり、教室には心地よい緊張感が漂っています。

簡単に自己紹介を終え、さっそくタブレットを配ります。
初めて触る(わけではない子もいますが)タブレットに、明らかに興味津々。心から嬉しそうな素振りを見せ、早くスタートボタンを押したくてたまらない子どもたち。

私たちは、黒板に「取り組んでほしい問題の番号」を書くだけ。言葉は極力使いません。

一斉にスタートボタンを押して1秒、2秒、3秒 ー。

何が起きたかは、冒頭でご覧いただいた動画の通りです。

教材が、はっきりと言語や文化の壁を越え、セブの子どもたちに「考える喜び、分かる喜び」を届けた瞬間でした。

確かな手応えと、子どものポテンシャルと。

日本では、研究授業で子どもが躍動する様子を毎週のように見ていましたが、そこに集まっているのは元々教育水準も高く、(日本の中でも特に)「意欲」の高い子どもたちです。

そういったこともあり、彼らに通用しても、世界では…?と確信を持てなかった部分がありましたが、それは杞憂でした。

一人ひとりがきちんと試行錯誤をしながら、「自分自身で考える」姿が、そこにはあったのです。

正誤に応じて徐々に手強くなっていく問題にも、ギブアップせず向き合い(時にぶつぶつ何かをつぶやきながら)、自分なりに一生懸命答えを出します。

出した答えに対して即座にフィードバックが出る仕組みとリズム感が、その正否を問わず、子どもたちの「次も頑張ろう!」という意欲を育てていきます。

その目は明らかに意欲と喜びに満ちていて、一問ごとに小躍りしたり、立ち上がって問題に取り組んだり。

普段子どもたちを教えている先生さえも、驚きの表情でその光景を見つめています。

まさに「躍動感」を感じられる、そんな時間でした。

1問目の3分間が終わった時点で、確かな手応えを感じた私たち。予定を変え、難易度の高い問題に、これも、あれもと、沢山挑戦してもらいました。

結果は、事前の予想を遥かに上回るものでした。

当然、公立小学校という特性上、学力にバラツキは有ります。時には補助も必要です。しかし、「カリキュラム」に沿った内容の学力ではなく、「考える力」を純粋に試した場合、そのポテンシャルに国や環境による大きな違いは無いのだと、この世界での経験が浅いながらも、そう確信を持てた出来事でした。

この旅で、我々は2つの小学校と貧民街、養護施設をめぐり、それぞれの場所で子どもたちを集めて簡易的な授業を行いました。どの場所においても、子どもたちは、問題の意図や意味をしっかりと理解して問題に取り組むことが出来たのです。

ポテンシャル自体に大きな差がないからこそ、それが発揮されないままで埋もれないように、しっかりと伸ばせる教材を作っていくことが、我々が子どもたちに出来ること。改めてそう感じさせられた、大変に実り多い訪問となりました。

      

「IT×教材」がもつ”本当の”可能性

今回の訪問を通じて、IT教材だからこそ出来ること、また、やるべきことがあると、再認識しました。

問題の長さ、難易度の幅、リズム感、ユーザーインターフェース。そういった、「子ども」と「問題」の間に存在する見えない障壁となり得るものを、微に入り細に入り調整し、最適化していくことが、IT教材には出来る。

そして、それは確実に世界でも通用する、「意欲」を失わせずに育てていける、「不均衡解消」の切り札となり得ます。

紙教材の限界を超えて、ITの力で、子どもたちの「学ぶ意欲」を育てられるように。
単なる学習カリキュラムのサポートや、集団学習のサポート機能として存在するITではなく、本質的な「考える力」を伸ばせるように。

今回のセブにおける出来事は、それが夢物語ではなく、世界規模で実現可能な「目標」であることを、再認識させてくれた、貴重な経験となりました。

教育とビジネス。難解な方程式に挑戦する。

こうした目標の実現を考える上で私たちの行く手を阻むのは、ビジネスとしての壁です。

教育の世界は、思っていた以上にビジネスとして成立させるのが難しい世界です。裾野の広いサービスとしての展開を目指すのであれば、なおさらです。しかし、世界規模で持続可能なサービスに育てていくには、やはりその実現は不可避だとも考えています。

未熟ながら、世界規模のビジネスの現場に身を置いていた人間として、この課題と取っ組み合いを続けていきたいと思っています。

最後に、この取り組みをサポートしてくださっている、日本一素敵な先生と、フィリピン一子どもを教えることが上手な若き才能2人に、この場を借りて、心より感謝を申し上げます。

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徳丸 晃大 (Kodai Tokumaru)

慶應義塾湘南藤沢中・高等部出身、慶應義塾大学卒業。2009年に三菱商事株式会社入社。人事部にて新卒採用を担当したほか、新産業金融事業グループ、管理部において、国内外の事業投資に携わる。2014-15年にかけてモスクワ勤務。 2017年2月に株式会社花まるラボに参画、4月より現職。人事、管理、マーケティングに亘り、幅広く担当している。